一級建築士事務所DNA
DNA
ARCHITECTS
 

Outline

所在地 京都市南区
建築面積
延床面積
敷地面積
規模 地上1階建
構造 木造
用途 幼保連携型認定こども園
意匠設計 角直弘 横井雄大
構造設計 株式会社村田龍馬設計所
設備設計 機械・羽田設備設計 羽田信晴  電気・静野設備設計 静野雅彦
施工 京成建設株式会社
造園 Green Space株式会社
撮影者 冨田英次

住宅建築に対する考え方

クライアントの声に耳を傾ける

建築には設計だけでなく、建築全体のプロデューサーとしての役割もあります。施主、事業主、利用者をはじめ建設会社、設備をはじめとするメーカー、専門業者、職人など多くの関係者の意見を聞き、関係者皆さんの日々や気持ちを想像したりしながら、建物の完成に向けて様々な事柄を調整することも大切な仕事です。

時に現場では、コストや納期への影響の面から、自分都合の声を発する人や業者もいます。また設計者自身の「自分の声」も厄介なものです。「自分が良いと思うもの」「自分として譲れないもの」、そんな声を発するのですが、そんな振る舞いを許し続けるとエゴにつながることもあります。

どんな声にも一度は耳を傾ける姿勢を持ちつつも、「クライアントの声」を最も大事にし、自分の声をかえりみながら、安全で優れた公共財のひとつとなる建築を生み出す。これが建築の原点であり、良い建築、良き街への第一歩であると考えています。

住まいは公園のように

家族と一緒に暮らす家は、まるで公園のような風景を思い描きます。

公園では、それぞれが、そこかしこにある遊具で自由にのびのびと楽しんでいる。互いに笑う顔が見えて、声も聞こえる。ずっとここで過ごしたくなるような、とてものどかな雰囲気。誰かが危なっかしいことをしていたり、ケガをしたりすれば、すぐに見つけて走り寄れたりもする。

家の中でも、このような情景をつくりだすことが私たちの理想です。家族それぞれが思い思いに過ごすことができる。しかし互いに気配は感じ取れて、一緒にいるという感覚を味わえる。安らぎと温もりの空間です。家族の異変もすぐに察知できて、よい方向に導くこともできます。 このような空間でまず大切なのは、家族が様々なことに取り組める仕掛けです。例えばリビング・ダイニングでは、メインのテーブルの他にもう一つ、コーヒーテーブルのようなサブのものをしつらえます。こうしておくと、メインテーブルを明け渡さなければならない時でも、作業の道具を片付けずにサブテーブルに移動するだけで済むというわけです。

家族が生きる拠り所

住まいは生きものです。だから、ぜひとも長生きしてほしいと願います。住まいの長生きとは、家族代々、大切に受け継がれていくことです。

建物をこまめにメンテナンスして長持ちさせることは、もちろん大事です。しかしそれだけでは、私たちが考える大切に受け継がれていくこととは少し違います。 先祖代々、大切にしたいと願い続けている何かを、住まいという形で受け継いでいくということ。つまり、家族が心を一つにできる、核となるものの存在が必要です。それは、家系の記憶の継承といった、目に見えないものかもしれません。しかし、住まいの中にその象徴となるもの、皆の目に見えるものをつくっておくことが大切なのです。先祖代々の家族写真を飾る部屋かもしれないし、シンプルに先祖の仏壇かもしれません。

大切なものを守る─これが生きるためのモチベーションにもつながるものです。

暮らしの美意識

何を美しいと感じるかは人それぞれですが、美意識をもって行動することは、自分がどのように生きたいかを考え、理想を実現していくことにつながります。住まいはその基盤を築く場所です。

物をすっきりと納められる工夫、感性を引き出すインテリアのデザイン、無駄な動きを必要としない便利なしつらえなどは、私たちが設計において常に意識していることです。家の中での所作が自然に美しくなるような仕掛けが大切であると考えています。美意識を持つ家族が美しい住まいをつくり、美しい住まいが集まって美しい街をつくります。

美しくあることは、自身のためであると同時に、周囲への配慮、尊重、思いやりといったものでもあります。

妙を得ている平屋

敷地の形状や面積にもよりますが、私たちがおすすめする住まいのかたちは平屋です。

子どもたちが巣立った後の子ども部屋など、2階が使われずデッドスペースとなるケースは多くあります。1階だけで生活は完結し、2階に上がる必要がないのです。私たちは、無駄なスペースがなく、めいっぱい使いこなしていただける住空間をつくりたいと考えています。

バリアフリーの観点からも、平屋は階段の上り下りの負担がなく安全です。昨今ではご高齢者のみならず、マンション暮らしに慣れてのことか、若い世代の方でも階段がこわい、苦手だという人が増えています。

また平屋は、ペットと一緒の暮らしにも向いています。広々としたワンフロアは、犬や猫などにとってもうれしいものです。

外観ファサード(正面)のデザインにおいても、2階建以上の場合は1階の床が高くなりバランス的に良くないものとなりがちですが、平屋であればそのようなことはなく、庇が映えて安定感のあるデザインとなります。 

多世帯住宅ではプライバシー確保を

2世帯以上が暮らす多世帯住宅では、どこまでを共用部分とするかが重要となります。例えば、玄関のみ共用で生活部分は完全に分離する、リビングは別々で水回りは共用など…。打合せ時にご家族同士でどのようにするかを考え、こまかく生活のルールを決められることがほとんどです。

ただ、私たちは、できるだけ各世帯のプライバシーを確保することをおすすめしています。打合せ時は共用部を多くすることとし、和やかにさまざまな生活のルールを決められていたご家族でも、実際に住んでみると思いもしなかったことで衝突などが生じ、結局、いずれかの家族が別の住まいに移るというケースも実際に見てきたからです。

衝突の原因として多いことの一つに、生活音の問題があります。できるだけ防音性能を上げておくことが大切ですが、特に木造住宅は防音が難しいので注意が必要です。 

さまざまな庭の効果と設計手法

人間は自然の一部であるので、木々や花などの自然に触れる日常は、心身に良い影響を与えます。住まいにも、それがかなう庭があるのが理想的です。敷地周辺の自然が眺められるよう、立地やプランを考える方法もあります。

庭を設けるために必ずしも広い土地が必要というわけではありません。小さなスペースでも、緑などがあり、室内からも広がりや奥行きを感じる眺めの庭をつくることも可能です。庭は室内を心地よくするための優れた装置でもあります。

建物の周り(外構)に木や花を植えておくのも良いものです。住宅地では特に周辺の景観に溶け込むことを助けます。また、木や花の話をきっかけとし、ご近所とのコミュニケーションも生まれるかもしれません。

自然との関わりや、室内空間を快適にすること以外にも、バーベキューなど遊び・レクリエーション、体を動かすなど、庭にはさまざまな用途があります。体を動かすことでいえば、例えばコンクリートの壁を1枚つくるだけでテニスの壁打ち、キャッチボールなどを楽しめます。

住まいのメンテナンス

建物は老朽化するものなので、健康管理、メンテナンスが欠かせません。お引き渡し後、1・2・5・10年目には、建物の健康状態などに意識を向けていただく機会になればと、お客さまにおハガキをお送りしています。修繕、リフォームなど、お気軽にご相談ください。

国の法律には「契約不適合責任」があり、建物の欠陥や不具合について、一定期間は売主が責任を負うルールとなっています。

技術のアプローチ

構造について

木造(W造)、鉄骨造(S造)、鉄筋コンクリート造(RC造)など、あらゆる種類に対応しています。お客様が建物に求める性能、プラン、デザイン、予算などを考慮し、適切なものを採用します。

構造においては安全性、特に耐震性は重要な性能の一つであり、構造設計は、専門の構造設計士が行います。

建物の安全性に関わる法律・制度は、主に建築基準法、住宅性能表示制度です。住宅性能表示制度の「地震に対する構造躯体の損傷のしにくさの表示」における等級は3~1となっており、当社では基本的に最も高い等級3をめざします。

ただし、これによって生活に不便が生じる、著しくデザイン性を損なうなど、お客様のご要望からかけ離れる場合は、できるだけ妥協点をさぐっていきます。

温熱環境と省エネ

室内の温度は、快適性はもとより健康に大きな影響を与えるため、適切に保つことが重要です。

例えば大きな吹抜けや窓は、室内も気持ちも明るく開放的なり、デザイン性にも優れた空間をつくります。しかし、大きな吹抜けはコールドドラフトによって体感温度は上がらず、大きな窓は直射日光を室内に入れ、温度上昇を招くばかりか、家具や内装の劣化を早めます。このため、室内を適温に保つよう空調設備がフル稼働することになり、エネルギーと光熱費がかかるわけです。

私たちはデザイン性だけにとらわれた設計は行いません。室内で過ごす人の快適さと健康に配慮し、省エネルギーで地球に負荷をかけない建築をつくります。

2025年には、住宅性能表示制度(断熱等性能等級)の等級4(2016年省エネルギー基準)が最低ラインとなります。さらに2030年には、ZEH(ゼッチ)住宅(Net Zero Energy House:ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の水準が最低ラインとなります。私たちは「ZEHプランナー」であり、お客さまや地球環境に貢献します。

防犯対策

最近では、強盗などが家に侵入し、住人が大きな被害にあったというニュースも多く、人々の防犯意識がいっそう高まっています。お客様の要望に応じて、対策を施します。

侵入口として多いのは窓、玄関、勝手口。窓には防犯ガラスやシャッター、雨戸が有効です。なるべく敷地内で死角や足場をつくらない、夜間は家の周りに照明をつけて暗がりをなくすなどの工夫もします。防犯カメラ、ピッキングの被害にあいにくい鍵など、設備面の充実もポイントです。

 

礼拝堂とイチョウのあるこども園

建替による園舎の耐震化にともない、幼稚園型認定こども園へ移行した園舎、園庭の設計です。
幼稚園は京都聖三一教会の付属施設です。国登録有形文化財である教会の「礼拝堂」があり、「中京区・区民誇りの木」である雌雄の「イチョウ」が園庭の中央に位置しています。
新園舎はそれら既存の礼拝堂とイチョウに連続し、取り囲むように計画しています。園舎は礼拝堂を参照し、外構フェンスは聖書にでてくる動植物をモチーフとして、デザインしています。園庭には広さに限りがあったので、園舎とひと続きのだんだんデッキを設けました。
園児たちが走り回り、遊ぶことができ、イチョウにより近くで触れ合うことができる遊具として活躍しています。

 

京都聖三一教会

 

京都で初めての日本聖公会に属するキリスト教会です。平安京豊楽院の跡地であり、秀吉の聚楽第の南西側にあたります。 現在の地名「聚楽廻」に、その名残りがあります。

年表

1898年 京都市烏丸下立売に京都聖三一教会として発足
1930年

現在地に礼拝堂を建設し移転
基本設計:園部秀治兄(信徒)
設  計:John van Wie Bergamini
     (ミッション設計技師)
施工:棟梁 宮川庄助の施工で完成

  • 木造二階建
  • 洋風の中に和の技法を忍ばせた
    2×4(枠組み壁構造)方式
  • 1階 幼稚園
  • 2階 礼拝堂
    (ニコルス監督により聖別)
1932年 聖三一幼稚園の開設
1977年 幼稚園教室などを新築。教会部分の増改築を行いほぼ現在の姿となる
1999年 礼拝堂:(国)登録有形文化財
2015年 礼拝堂:京都市景観重要建造物

聖三一幼稚園+牧師館

 

「耐震化」と「幼稚園型認定こども園」への移行

建替前の園舎(1977年築)は現行の耐震基準を満たしていなかった。
法人側で耐震化のため、数年をかけて耐震診断、補強の検討をされていたが建替が合理的との判断となり、今回の園舎の建替となった。
建替にともない、幼稚園から「幼稚園型認定こども園」へ移行することとなり3~5歳児の保育室に加えて、1~2歳児の保育室の設置が求めらることになった。

面積の確保

計画にあたっては法令により収容人員に対する各諸室、園庭等の面積を確保することが求められる。
一方、園庭には礼拝堂建設当初から植えられ、現在は「中京区・区民誇りの木」となった雌雄の大イチョウがある。その根を傷つけないように、できるだけコンパクトな配置計画を求められた。
一方高さ制限もある地域なので、3階建て10M以下で高さを押さえ、かつ、礼拝堂に連続した屋根を設け1フロアの面積をどうコンパクトにするかということが設計上の大きなポイントになった。

構成

1階を職員室、遊戯室、3歳児室。2階を4、5歳児室と厨房。3階に1、2歳児室と牧師館を設けてる。
階上の厨房にはダムウェーターを設置し、全階への配膳をスムーズにしている。
3階には聖公会の牧師が住むことになる牧師館もある。
職員室は入り口が見えるような配置とし、死角になる箇所には防犯カメラでセキュリティを補完している。
こどもたちのアプローチはピロティとしたり、大屋根を設けている。

礼拝堂との連続性

礼拝堂から連続する勾配屋根が、園庭をL字型で囲むような構成としている。
さらに連続するように付属させただんだんデッキが、園庭を取り囲み1階の園庭・ピロティ、2階のテラス・だんだんデッキ、そして3階のルーフテラスと、形態としてもアクティビティとしても連続するようなデザインでありプランとしている。
屋根勾配や装飾三角窓の勾配、格子のピッチ、また各所に散りばめられた葡萄や羊、十字架などのモチーフを引用しながら、全体の、また細部のデザインを構成している。

 

園庭⇄「だんだんデッキ」⇄ルーフテラス~遊びまわれる園舎

園庭は運動会にも使われる。計画時はこの広さの園庭が運動会で使われているのかと驚いた。
 親や祖父母で溢れかえるとのことだったのでだんだんデッキやテラスを複層にわたる観覧席として構想した。
本計画の売りでもある「だんだんデッキ」は雄の大イチョウを取り込み、園庭、2階、3階へのテラスとつながっている。
こどもたちが走りまわる、遊びまわれる場所とすること、敷地を端から端まで走りまわるための装置としている。

構造と工法~現場でのフレキシビリティ

計画地は前面道路が狭く、また工期、工費を勘案し鉄骨造としている。
だんだんデッキは雄のイチョウを取り込み、園庭を取り囲むような配置としているため現場で掘り方をした際に、広がった根を避けられるよう、その際に大きくデザインや構造計算が変わらないように、三角平面を組み合わせた計画とした。
予想通り、根は縦横無尽に伸びていて、現場では基礎形状やスパンの調整、それにともなう鉄骨断面の再確認や検討を行った。
アプローチのテラスはRCのフラットスラブで構築し、天井高さを確保し、メンテナンス性を高めている。

 

祈りと感謝

初めての経験となるこども園の設計でした。
私たちの可能性にかけていただいた教会、園の関係者の皆様には感謝の念がたえません。
 設計中、工事中は関係者の皆さんから暖かく見守っていただきました。
さまざまなフェーズで、大小さまざまな問題がありましたが、園にかようこdもたちの応援や祈りに包まれたおかげで、予定通り完成にたどりつくことができたことが、何よりの達成感でした。
使い始めてからも、さまざまな出来事がおこっていますがこれからも充実した園になるように関わり、祈っていきたいと思います。

 

 

京都デザイン賞2018入賞(公益社団法人京都デザイン協会)

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所在地 京都市中京区聚楽廻中町45
建築面積 563.7㎡
延床面積 655.72㎡
敷地面積 981.73㎡
規模 地上3階建
構造 鉄骨造
用途 幼稚園型認定こども園
構造設計 合同会社一級建築士事務所アトリエSUS4
設備設計 機械・羽田設備設計 羽田信晴  電気・静野設備設計 静野雅彦
施工 株式会社高橋工務店
アイアンアートフェンス element 猪原 秀彦
撮影者 冨田 英次