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N-HOUSE 写真:市川かおり

クライアントの「声」に耳をかたむける

建築設計では、様々なレベルで「他者」を意識しなければいけません。 建物を創るという視点で考えれば、最も重要な「他者」は住宅に住むことになる住まい手であり、 その人達が発する「声」を想像したり、直接耳にしたり、 より喜んでもらえる様に建物をアジャストしていくことだと思います。

しかし、実際の設計・建築現場においては住まい手が住むに至るまでに、 様々な「声」を聞くことになります。

それは、設備屋や内装屋などの専門業者であったり、建設会社のスタッフであったりします。 施工者の「こうした方が良いんじゃないか」という「声」は、 建築過程において向かうべき方向性を示してくれることが多いですし、 その提案のままに設計自体を修正する場合も少なくありません。

しかし我々が特に注意をしているのは、その「声」が「どのくらいの重要度で発せられているか」 です。建築の工程で「ここは、この様にしたほうが良い」と提案をもらった時に、 われわれが向いている方向性と一致しない場合、 その業者が「どういうつもりで言っているのか」と戸惑う時があります。 建築過程においてこの方が作業がかさばらずに済む、 うちの在庫では対応できないのでコストがかかる...等、施工者側の都合での「声」と 住まい手の安全性や利便性を考えた上で、確信に基づき、 必要にかられて述べられている「声」では大きく意味合いが異なります。 当然、後者の「声」が多いのですが、実際には前者のような自分本位、 つまり住まい手を考えない「声」も少なくはないのです。 業者間の会話では、コストや納期の部分に入り込んでしまい、住まい手不在のまま 建物だけが作りやすい方向に進んでゆくケースも少なからずあるということです。

住まい手にとっての住み良い住空間を考えるのであれば、 プロデューサー的役割をもつ建築士が、クライアントの「声」を最も聞いて、 最も理解していなければならないと思われるのです。

ただ、それら様々な「声」のある中で、 実は一番影響力の大きいものに、「自分の声」というのがあります。 「自分が良いと思うもの」「自分として譲れないもの」等、 絶えず自分に問いかけてくるこの声が一番厄介かもしれません。

建築家のなかには、この「自分の声」ばかりを大事にするばかりに、 それを前面に押し出し、あるときは熱弁まで奮う方々もたくさんいるのです。

「自分の良い」は本当に良いのか、はっきりと判別する方法はありません。 さらに、この「声」はのさばらせておくと「エゴ」に成長する危険すらあります。

何にせよ「どんな意見にも一度耳を傾ける」心の姿勢はもちつつも、 我々は我々に建築に携わる機会をいただいた、 また夢を形にしようと決心してご依頼をいただいた 「クライアントの声」を最も大事にしたいと思うのです。

それが建築の原点でもあり、豊かな住まいへの第一歩とも我々には思えるのです。